お盆のこころ お盆と棚経 お盆 先祖

お盆と棚経

東京では7月にお盆を迎えます。お盆はもともと7月の行事なのですが、ほとんどの地方では旧暦の7月、つまり8月に行われています。

お盆になりますと、浄土系の宗派(ご先祖さまは全員子孫のお宅には帰らず極楽浄土で修行中のため)を除き、お坊さんの多くは棚経(たなぎょう)に出かけます。
棚経とは、お盆の期間中にご先祖さまをお迎えする棚を設け、お飾りをしてお位牌やお供え物を置きますが、これを「精霊棚(しょうりょうだな)」または「盆棚(ぼんだな)」と言い、この前でご家族と一緒にお坊さんがお経をあげてご先祖さまのお幸せと感謝をお祈り申し上げることです。

暑い季節にお盆、棚経。
汗だくになりながら檀家さんのお宅に伺い、お経をあげさせていただくわけですが、これも仏さまや宗祖からしっかり修行しろと言われているんだと思い、お坊さんはくじけずにがんばるわけです。

しかし地方在住の友人のお坊さんからこんな話を聞いたことがあります。
ご挨拶もほどほどに(1日に何軒ものお宅に伺うので、あまりゆっくりできないという事情があります)棚経を始めると、ご夫妻そろってそっと別室に移動。かすかにテレビの音声が聞こえてきたそうです。
そして、

お坊さん:(すがすがしい声で)お経おわりました。
奥さま:はーい。(ちょっと小声で)お父さん、もう終わったってよ!
お坊さん:(聞こえてるんですが・・・)。

ちょっとくじけそうになった、とのことです。

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ご先祖さまとお盆を過ごすとは

こういうご家庭もたまにはありますが、私が棚経に伺ったあるお宅でのことです。
檀家をたくさん抱えているお寺では、ご住職だけでは限られた期間内に伺いきれないことがあります。そんな時はお手伝いの僧侶と手分けをして棚経をつとめることがあります。

お宅に上がらせていただくと、先におばあちゃんが老人性のご病気をお持ちだとご家族の方からお聞きしました。

あらためてご家族の方々にご挨拶を申し上げますと、そのおばあちゃんからすかさずひと言。「あんた少し太ったわね」。
ご家族の方は違うお坊さんですよと教えていましたが、ご住職とお間違えになったようです。私はとっさに「どうもすみません」と言うと、おばあちゃんはニコニコされていました。

間もなくご家族みんなそろったところでお経を始め、私がお題目を唱えると、少し後ろからおばあちゃんも元気よく「南無妙法蓮華経」とお唱えになっていました。信仰の力はすごいなあ、後を託すご家族のお手本になってるなあと感じました。

そして帰り際にお元気でと言いながらおばあちゃんと両手で握手をしましたら、ニコニコしながら再び「あんた少し太ったわね」。私も再び「どうもすみません」。
こんな会話の中、おばあちゃんもご家族の方々もとても素敵な笑顔で見送って下さいました。
くたびれたなどと言ってられません。いざ、次のお宅へ。
もちろん、私もおばあちゃんをお手本にさせていただいています。ありがたいことです。

こんなふうに今を生きている私たちは、感謝の気持なくしてひとさまと関わり合えませんが、そもそもご先祖さまなくして、今の私たちの肉体や精神は存在し得ません。

そう考えていくとお盆は、年に1度ご先祖さまを自宅にお迎えして感謝を申し上げるだけではなく、見守る側として実際の暮らしぶりをご覧いただき、幸せな暮らしや次世代の人々に大事を伝える努力ができているかというのを検証していただく機会なのかもしれません。

精霊棚にはキュウリを馬に見立て、ナスを牛に見立ててお供えします。
これらはそれぞれご先祖さまに一刻も早く我が家に来ていただき、少しでもゆっくりお帰りいただきたいという願いであり、先人たちが伝えてくれたことです。
この願いを受けとめず、ちょっとでもゆっくり来て一刻も早く帰って欲しいと思うようなバツが悪い暮らしでは、ご先祖さまも心配がつきないことでしょう。

お盆を迎えるにあたり、ご先祖さまに安心してゆっくり楽しくお過ごし下さいと思えるような暮らしでありますよう、こんなことに触れていただければ幸いです。


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